LOGIN★ アメリ編 ★
「そんな経緯があったんだ。でも、何でユキがリーダーやってるの? 言いだしっぺで最年長っぽいサツキさんが向いてそうなのに」
「私たちに、さん付けはしなくていいよ。リーダーはね、面倒見がいいし、自分は変人だからってサツキから押し付けられた。まあ、気に入ってるからいいけど。サツキってば、自分が変人だっていう自覚はあるんだよね」 ユキが、クスクス笑う。 「さて、朝が近いから、今日はもう寝よう?」 パンダくんにはロフトにどいてもらって、私とユキは同じベッドに寝た。こんなところまでカンナとの暮らしを思い出す。そんなことを考えてたら、涙が出てしまった。今日の私は泣き虫だ。ご主人様に捨てられたことよりも、カンナを傷つけた方がずっと辛い。そして、ユキの優しさが心に染みる。「あ、おはよー。もうすぐタマゴサンドできるよー」
夕方に目が醒めた。丁度、ユキがご飯を作っているところだった。私は「おはよう」と挨拶を返して顔を洗うと、テーブルに着いた。 「できたよ! ごめんねー、私料理下手だからこんなんばかりで」 そういいながら、ユキはテーブルにサンドイッチとコーヒーを置いていく。 「ううん、ご馳走してくれるだけでありがたいよ」 ユキが向かいに座るのを待ってから、「いただきます」といってサンドイッチを頬張る。ユキは謙遜するけれど、いい塩加減でおいしかった。 「ねえ、私たちと一緒に歌わない?」 ユキの言葉に、コーヒーカップを持った手がぴたりと止まる。 「ごめん、私歌はもう……」 「アメリが歌で傷ついたのは分かってる。でも、アメリの苦しみを救うのも歌しかないと思うんだ」 コーヒーカップの水面を眺めて逡巡する。「あ、ストップ!」
歌の途中で、ユキが突然ストップをかけた。 「クミ、声少し掠れたよ。喉、痛めた?」 「ごめん、ちょっと」 私たちはどのぐらい歌っていただろう、ユキがクミの異変に気付くまで、ずっと歌い続けていた。 「じゃあ、今晩はここまでにしようか」 ユキが中止を提案する。 「ううん、まだみんなで歌っていていいよ。アメリお姉ちゃんなら、私のパート歌えるし。ここで聴いてる」 「クミ、そんなになるまで気づかなくてごめんね」 ユキは本当に面倒見がいいのだと思った。 「ううん、それより聴かせて、みんなの歌を」 クミはとことこと歩いていくと、木馬に横に腰かけた。 一同は、クミの希望もあって、歌を再開することにした。 みんなが、ひょいひょいとジャングルジムに登っていく。 「ほら、アメリも!」 ユキが手を差し出す。私も、ジャングルジムに登った。 ジャングルジムの上は、地上とは感じが違った。空気が違うというか、なんというか。ステージの上ともまた違う。上手く言い表せない。「いくよー、みんなー!」
ユキの号令がかかる。『夜空に 星が 輝く ジュエリー・スカイ』
クミが担当していた高音パートを私が引き受け、歌声が再びハーモニーとなって空に響く。ああ、これがクミが見ていた世界なんだ。
私たちは無心に歌った。そして、朝日が昇ると解散した。クミの喉が回復しますように、と祈りながら。「少し考えさせて」
「うん。とりあえず、私たちの歌だけでも聴いてよ。これから集合なんだ!」 気は進まなかったけど、このままユキの家にいても、洗い物ぐらいしかやることがないし、一緒についていくことにした。『歌を歌おうよ あの空に響かせようよ 空はどこまでもつながっているから』
昨日と同じ公園、昨日と同じ歌だ。ここがきっとお気に入りで、これが十八番なのだろう。あるいは練習中の新曲か。
昨日も思ったことだけど、本当にこの四人は楽しそうに歌う。歌うことの喜びが、全身から放たれてるような感じを受ける。 『空はどこまでもつながっているから』――ご主人様はこの空の向こうで、今頃何をしているのだろうか。いつかまた、会えるよね。夕空を見上げて、そんなことをぼーっと考えた。 「――メリ、アメリ!」 夢想をしているところを、ユキの声に引き戻された。 「私たちの歌どうだった?」 「あ、うん。良かったと思うよ」 答えてから、もっと気の利いた言葉を返せばよかったと、少し後悔した。 「そっか。よーし、みんなもう一回いってみよー!」 ユキたちはどこまでも元気だ。昨日ユキが言っていたように、彼女たちには次の役割分担がある。低音のユキ、中音のユカリ、高音のクミ、そしてボイスパーカッションのサツキ。この四つが絶妙なハーモニーになっているのだ。ソロで歌ってきた私には、こういう世界もあるのかと、目から鱗が落ちる思いだった。歌の世界はまだまだ広い。 「ねえ、私も混ざっていい?」 私の口をついて、自分でも意外な言葉が出た。さっきまで、あんなに歌うことが嫌だったのに。ううん、嫌になったんじゃない。逃げていただけ。 「もちろん! みんなもいいよね?」 ユキの同意に、他の三人も頷く。さすがにジャングルジム五人乗りはスペースに無理があるので、地面で歌う。並び順は、ユキ、ユカリ、私、クミ、サツキ。真ん中とか、ちょっと照れくさい。 「そういえば、歌詞はどうするの?」 サツキが疑問を呈する。四人は歌詞を暗記しているが、私はまだだ。 「それだったら、多分クミがもってるよー」 そう言って、クミは何が入ってるのやら、ぱんぱんのショルダーバッグをごそごそと漁り始めて、しばらくすると一枚の紙を取り出した。 「クミの、何でも鞄に詰め込んでおく癖がまた役に立ちましたわね」 ユカリが溜息をつく。ともあれ、これで歌に参加できる。 「ところで、どの音程のパートやるの?」 「全部行けると思う。七オクターヴ出せるから」 「七!?」 一同相当驚いたようで、みんな耳がピンと立って、尻尾が膨らんでる。お揃いの反応が可愛らしくて、思わずクスリと笑ってしまった。とはいえ、四人の反応も無理はない。七オクターヴといえば、相当広い音域だ。 「驚いた。歌の特訓を受けたとは聞いてたけど、七とか凄いなあ」 ユキが目をぱちくりしている。 「とりあえず、歌ってみようよ」 私はみんなに声をかけた。みんなは頷き、セッションが始まった。『夜空に 星が 輝く ジュエリー・スカイ』
初めて歌う歌なので、どうにもたどたどしい。そうして苦戦していると、ユキたちが外れた音をフォローしてくれる。ソロでは味わえない感覚だった。
『歌を歌おうよ あの空に響かせようよ 空はどこまでもつながっているから』
何度か歌っていると歌の方にも慣れてきて、音をはずすことはなくなった。ハーモニーが、歌詞のように空に響く。そうすると、私の気分は高揚してきた。きっと、これが楽しいという感覚なんだ!
★ アメリ編 ★「とうとう今日、行ってしまうのね。寂しくなるわ」 翌日の夕方、いつもの教会で、私とカンナはキャリーバッグを手に、まりあさんと最後の挨拶をしていた。「はい。あ、これクロから返すように頼まれました。とても感謝していると伝えてほしいって」「ありがとう」 ハーモニカを差し出すと、まりあさんは妹の形見を愛おしそうに受け取った。「お花のこと、お願いします」「ええ、任せてちょうだい」 カンナの育てていた花は、植え替えてまりあさんたちが面倒を見てくれることになった。植え替えはもう済ませてある。「他のみんなには挨拶はしたの?」「いいえ。クロとまりあさんだけです。寂しくなってしまうので。本当はクロにも黙って行きたかったんですけど、それでは迷惑をかけてしまうので」「そう」「じゃあ、まりあさん。私たちはこれで」「待って」 踵を返して旅立とうとしたところに、まりあさんが待ったをかけてきた。「あなたたちに祝福を。あなたたちの旅が幸多からんことを、アーメン」 まりあさんが十字を切る。「ありがとうございます。それではまた、いつか会いましょう」 私たちはまりあさんに会釈して、教会を去った。「ね、アメリ。どこへ行く?」「南へ! 暖かいところに行こう!」 二人で歩きながら、ノリと勢いで行先を決める。 私たちは、様々な街を巡り歩いた。色んな人《猫》々と出会い、そして別れた。 あの街のように、歌の大会を開いている街がいくつかあった。その中には、ミケのような振り付けを重視する街もあった。あるいは、楽器の演奏も自分でやらなければいけないところや、歌ではなく、ダンスの腕前を競っている街もあった。 そういった街に入る度に、イベントに参加して、行きずりの友人を増やした。歌オンリーのイベントでは、高い評価を得たけど、動きが入ると途端に厳しい。 世界は広い。学ぶ事だらけだ。 そんな放浪のある日、私は「あっ」と叫んだ。「どうしたの、アメリ?」「あ、ううん。何でもないよ、行こう」 それは、とても良く見知った、懐かしい人間だった。 でも、私はカンナと共に生きると決めたんだ。さようなら、ご主人様。私は、心の中で決別を告げた。首輪と首の鈴、ご主人様との絆はこれだけでいい。「私と一緒に歌おうよ!」 今日もどこかの街で、私の歌声が響き渡る――。
★ クロ編 ★ 次がカクテルの出番であることを告げるアナウンスが流れる。「お。そんじゃー、行って来ます!」 ユキが私たちに敬礼して、意気揚々と仲間とともにステージへ向かう。「そういえばアメリ、最近カンナを見かけないけどどうしたの?」「ああ、ちょっとね」 アメリが答えをはぐらかす。彼女が隠し事をするなんて珍しい。ちょっと顔が寂しそうだ。あまり追及しない方がいいのかも知れない。 それにしても、アメリは不思議な猫だ。 ミケはあんなに性格が丸かっただろうか? 前の夜会での、アメリとのやりとりから、急に人柄が丸くなった気がする。 隣町の片隅に埋もれていたカクテルも、アメリと出会ってこの街で脚光を浴びることとなった。 そして、何より変わったのが私だ。歌しか友達が居なかった私が、アメリとの出会いを通じて、たくさんの友人に恵まれた。声が出なくなった時、アメリの尽力がどれほど心強かったか分からない。 アメリは、みんなの幸福の招き猫だ。 声が戻った日の夜、私は自分の歌が新たな地平を切り開いたのを実感した。それは、再び歌えるようになった喜びと、恋。 私は、アメリに恋してしまったようだ。でも、アメリにはすでにカンナがいる。私は、カンナを裏切れない。二人の関係を踏みにじることができない。苦しい。恋って、こんなに苦しいものだったんだ。どきどきする以上に心が苦しい。「クロ、出番だよ」 私は、アメリに揺さぶられて我に返った。出場アナウンスにまったく気が付かなかったらしい。いつの間にか、カクテルも戻って来ている。「ごめんなさい。行きましょう」 私とアメリはステージに向かった。 私たちが姿を現すと、会場は割れんばかりの喝采に包まれた。ミケの九九点でテンションが上がっていることと、私の復帰。また、前回あの男のせいで台無しになってしまったというアメリの歌が聴けるということなど、様々な要因があるのだろう。 紹介が終わり、イントロが流れる。『ねえ手を取って 私と一緒に歌おうよ みんなで歌おうよ あなたの優しさが好き みんなの笑顔が好き。 手を合わせて 顔見合わせて 一緒に歌おう さあのびやかに さあ高らかに』 私たちが歌い始めると、それまでの熱狂が嘘のようにしんと収まってしまった。驕りでも何でもなく、聴衆が私の歌に聴き惚れているのが実感として分かる。私の歌を聴き逃
ミケのホームグラウンドの銅像前で早速互いのテクニックを教え合おうとしたものの、先ほど互いに言い合った「教えるのが下手」ということが、早速謙遜でも何でもないことが判明する。 仕方ないので、ミケは歌いながら、パートごとに動きをゆっくり見せていくことにした。「へええ~! よく考えられてるんだねえ!」「とりあえず、取り入れられそうなのから取り入れてみましょうよ」「そうですわね」「クミ、くるくる~って回るのやりたい!」 早速、四人組はどうやって動きを取り入れるかを相談し始める。ミケは、今のうちにノラの差し入れてくれたスポーツドリンクとバナナで水分と体力を回復する。 ノラと一緒にベンチに腰掛け、手を繋ぎながらカクテルを眺めていると、彼女たちは歌いながら振り付けをし始めた。はっきりいてたどたどしいし、動きがばらばらだけど、十回、二十回とこなすうちに、少しずつ形になり始める。次の夜会には、結構な振り付けが見られるかも知れない。「ノって来たとこ悪いんだけど、そろそろミケに歌を教えてもらえないかしら」「あ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃって」「でも、歌はどうしますの?」「ミケお姉ちゃん、私たちの歌、歌える? 歌詞カード出そうか?」「そうね。歌詞カードがあるのなら、あなたたちの歌でいいわ。ただし、振り付けの練習は禁止。ミケは歌に集中したいから」「オッケー」「了解ですわ」「いいよー」「というわけで、異存なし。ミケの声質だと、クミと同じ高音パートだね」 こうして、ついにカクテルと歌うこととなった。アメリは、彼女たちから何を掴んだのだろうか。『夜空に 星が 輝く ジュエリー・スカイ。歌を歌おうよ あの空に響かせようよ 空はどこまでもつながっているから』 最初は上手く歌えなかったけど、だんだんと慣れてくる。そして、慣れてくると、観察する余裕が出てくる。 カクテルを観察していると、歌うことそのものがとても楽しそうであることがよく分かる。 そういえばミケは、楽しく歌ったことがなかった。ミケにとって歌は、常に挑戦だった。どうしても打ち破れない得点の壁にいつもイライラしていて、口さがないアンチから付けられたあだ名が『尻尾振りのミケ』。 今日、ミケはノラのおかげで新しい世界が開けた。だから、色んなものを吸収していこう。彼女たちの「歌うのが楽しい」という想
さて、これからどうしよう。歌の特訓を始めてもいいけど、今日はなんとなく余韻を大切にしたい。そんな気分にさせられた。 そんなわけで、二人で、公園の遊歩道をぶらぶらして余韻を楽しんでいると、見知った姿にばったり出くわした。「あ、居た!」「何よ突然、大声出して」 カクテルのユキだ。ミケたちを見つけると、大声を出して駆け寄ってきた。「だって、銅像前にもステージにもいないんだもん。手分けして、公園中探し回っちゃったよ。ステージ前で落ち合うことになってるんだ。良かったら、付いてきてくれない? 大事なお願いがあるんだ」 ユキが手を合わせて、拝み倒してくる。カクテルがミケにお願い? どういう風の吹き回しだろう。気になるといえば、気になる。「OK、話を聞かせてもらうわ」 せっかくの余韻を、台無しにされたのはちょっと腹が立つけど、好奇心が上回った。「ノラはどうする?」「私も、ミケちゃんと一緒に行くわ」 着いたステージでは、クロ様とアメリが歌の練習をしていた。よくよく聞いてると、アメリの歌声が何か物足りない。もちろん、その原因はクロ様の歌が進化したせいだ。 ステージの周りには、ところどころ焦げ跡が見られた。昨日の火炎瓶の傷跡だ。見ていて少し、悲しい気持ちになった。「ミケ、ノラ、今晩は。よかったね、ミケ見つかったんだ」「今晩は」 休憩に入ったアメリとクロ様が、ステージ上から挨拶してくる。カンナの姿は見えない。ユキとはすでに挨拶済みなようだった。「今晩は。何だか、カクテルがミケにお願いがあるらしくて」「それで探してたんだ。でも、カクテルがミケにお願いって珍しいね」 やっぱり、アメリもそう思うか。「で、お願いって何?」「あ、それはみんなが集合してからで。そろそろ戻ってくると思うから」 ユキの言う通り、ほどなくして、サツキに連れられたクミと、ユカリが別方角からやって来た。「あー、よかった。ユキが見つけてくれたのね」「くたくたですわ」「ミケお姉ちゃん、今晩はー」 それぞれ、軽く挨拶を済ませる。「さて、今度こそお願いとやらを聞かせてほしいんだけど」「うん、あのね。振り付けを教えてほしいの」 歌いながらの振り付けは、夜会で唯一、ミケだけがやるパフォーマンスだ。「でも、振り付けても夜会では得点にならないわよ?」「知ってる。でも、得点なんかど
★ ミケ編 ★「ミケ、ノラちゃんが来てるわよ」 クロ様の祝賀会の翌日、ミケはママの声に起こされた。窓の外を見ると、まだ太陽が夕日にもなっていない。ノラと一緒に歌の練習に行くのが習慣だけど、何だってこんなに早く。「用意があるから、少し応接間で待たせておいて」 ミケはママにそう応えると、あくびを噛み殺して、ぬいぐるみでたくさんの、我ながら少女趣味丸出しの自室で、いつものフリフリの服に着替えを済ませ、ハンドバッグ片手にフローリングを歩いて階下に降りていき、洗面所で洗顔と歯磨きと髪の整えを済ませる。軽くお化粧を済ませると、応接間へ向かった。 応接間はゆったりしたソファとガラスのテーブルがあり、それぞれの面には、ママの用意してくれた紅茶が乗っていた。たっぷりのミルクに、角砂糖二つを入れて飲むのがミケの好みだ。「おはよう、ノラ」「あ、おはよう、ミケちゃん!」 いつも、おどおどしている感じのノラだけど、今日は一段と落ち着きがない。それに、着ている服に何やら妙な気合いを感じる。ミケの趣味に併せてか、ノラもフリフリだ。「歌の練習ね。なんでこんなに早く来たのか分からないけど、お茶を飲んだら出発しましょう」 いつもノラがお弁当を作って来るので、朝食は食べずに出ていくのが習慣だ。「あの、その、今日はそうじゃなくて……」「練習じゃないなら何なのよ」 やっぱり様子がおかしい。「デ、デート……しようかなって……」 ミケは、危うく口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。激しくむせてしまう。まさか、あの奥手なノラが、デートを切り出してくるなんて!「ミケちゃん大丈夫!?」 ノラが慌ててミケの背後に回ってきて、背中をさする。「何を言い出すのよ、突然!」 何とか呼吸を整えながら、ノラの様子を見ると、顔面を真っ赤にして俯き、両手の指を所在無げに組み合わせてもて遊んでいる。どうやら、本気のようだ。「駄目……かな?」 仔猫のような瞳でじっとミケを見つめてくる。ミケは、ノラのこの視線に弱い。 でも、昨日のクロ様の進化を目の当たりにして、焦る気持ちがあるのも事実。このままでは、どんどん差が開く一方だ。できるなら、寝る間も惜しんで練習に打ち込みたい。 しかし、心の奥底で、この間のアメリの「私と同じ失敗をしないで」という言葉がリフレインする。 すべてを犠牲にして歌に打ち
「みんな聞いて! クロの声が戻ったの!」 何となくアンニュイな空気を払うべく、私は階下に降りて、吉報をミケたちに知らせた。「よかったね、クロ!」「クロ様、本当ですか!?」「クロ、マジ!?」「おお、イッツ・ミラクル!」「驚きですわ!」「クロお姉ちゃんのお歌聴かせて!」 カンナとミケとカクテルが、クロに一気に迫る。「ちょっと! そんなに一気に言われても」 一斉攻撃に気圧されるクロ。クロのひと声に、「おおっ」とざわめきが起こる。「ねえ、せっかくだから、祝賀会を開かない? クロの声が戻ったことを記念して」 クロが困っているようなので、私が仕切ってしまおう。「さんせーい!」「クミ、おやついっぱいもってきたよー!」「あ、またそんなにおやつばかりバッグに詰め込んで!」 みなの足は、自然とクロ家へと向かった。 狭い。さすがにクロの家に十人は狭い。狭いところは大好きだけど、ちょっと限度というものがある。かと言って、他にいい場所もなく。ユキはクミを膝の上に乗せて、スペースを作っている。私とカンナも、寄り添って密着する。いくらカンナが好きでも、夏場だったらたまらないな、これ。ミケとノラも、同様に寄り添う。みんなの真ん中には、ちゃぶ台と、その上にクミがバッグから出したお菓子が並んでいる。「えー……、みなさまには、交代での護衛などのご助力をいただくうちに、この度めでたく声が出るようになりました。厚く御礼申し上げます」 クロが妙に畏まった挨拶をする。こいうとき、どういう態度を取ればいいのか分からないのだろう。仲間内なんだから、もっと自然体でいいのに。 祝賀会は、粛々と進んでいった。まあ、何だかんだでついさっき人死にが出たわけで、あんな男でもどんちゃん騒ぎはどうかと思う。クロも、バカ騒ぎはあまり好きではないようなので、これでいいのかもしれない。「そうだ。アメリ、もう私には必要ないから。まりあさんに返してあげて。とても感謝しているって伝えてちょうだい」 クロは、ハーモニカをポケットから取り出し、私に手渡した。「うん、分かった。きちんと伝えるよ」「ねえ、クロお姉ちゃん。お歌うたってよ!」 クミからリクエストが飛ぶ。 クロも、ずっと歌いたかったのだろう。照れくさそうに立ち上がる。「じゃあ、久しぶりに『ライジング・バード』を」 クロが歌い始めると







